シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「フランクさん、いますか?」

朝食を済ませたエミリーは、医務室に来ていた。

すると、フランクの姿はなく、助手が背中を向けて何か作業をしていた。


「どちら様ですか?今・・・手が離せないんです―――くっ・・この・・・大人しくしてろって・・・まったく―――フランクさんに用なら、今、演習場に行っていますので、そっちに――行って下さい」


助手は顔も上げずに何か一人でブツブツ言いながら、ひたすら下を向いて作業をしてる。

「ほら・・・もう少しだから・・・」


助手はピンセットで小鳥の傷に薬を塗っていた。昨日よりも少し元気になった小鳥は、薬が沁みて痛いのか、助手のピンセットを受け入れてくれない。

くちばしで攻撃して来たり、羽をピクピク動かしたりして、助手の狙いを狂わせていた。籠の中をピンセットが右往左往している。


そんな動き回る小鳥の小さな頭を、すぅっと綺麗な指が撫でた。

つぶらな瞳を閉じて大人しくなる小鳥。


「ほら・・・助手さん。今よ?」


助手は突然伸びてきた綺麗な指に驚きながらも、手早くピンセットを動かした。

少し沁みるのか、ピクッと小さな体が震える。

綺麗な指が頭を撫でている間に、何とか小さな包帯を巻き、助手は額に滲みでていた汗を拭った。



「ふぅ、やっとできた・・・」

「お疲れ様です。このコの治療、ありがとうございます」



「え?エミリー様!?・・・あ・・・あの・・申し訳ありません―――」

ガタっと音を立てて飛び退いていく助手。何故か頬が真っ赤に染まっていた。


「フランクさんは演習場って。演習場に何をしに行かれてるんですか?」


「今日は兵士の試験が行われているんです。毎年少し怪我をする人が出るので・・・それで行っています」


助手は棚から小さな箱を取り出すと、ピンセットで中身を取り出し、籠の中に差し出した。ピクッと頭を動かし、身動ぎをしてピンセットから餌をついばむ小鳥。


「食べているわ。ありがとう。この餌は助手さんが?」

美味しそうに餌をついばんでいる小鳥を覗き込むエミリー。


「違います。昨日フランクさんが取ってきました。私はただ言われたことをしているだけですので、いちいちお礼を言わなくても、宜しいかと―――――ゎっ!近いですっ!!」

叫び声とともに、再びバッと飛び退く助手。


「それでも、わたしは感謝の気持ちを伝えたいんです。助手さん、ありがとうございます」


ふんわりとしたいい香りが助手の鼻をくすぐる。頬は真っ赤に染まり、額に汗が滲んでいる。後ろで見ていた護衛の眉がピクッと動いた。


「助手さん?どこか具合でもわるいのですか?」