シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「メイ先輩、おはようございます。私、これを洗濯に出して来ます」

メイが部屋に入ってくると、入れ替わるようにナミは洗濯籠を持って出ていった。


「おはよう。メイ」

洗面室から下着姿のエミリーが出てきた。少し濡れた髪をタオルで拭いている。


「エミリー様、今年の月祭りの巫女は、アラン様の従妹のシンディ様がされるって噂ですけど、ご存知ですか?」

クローゼットの中から白のレースのワンピースを取りだしたメイは、下着姿のエミリーにサッと渡した。


「アラン様の従妹のシンディさんなら、昨日偶然外で会って挨拶したわ。とても可愛くて銀の髪が綺麗な子よ。あの子が巫女になるの?」

服を着て鏡の前に座ると、メイが髪を整え始めた。


「巫女は毎年学校を卒業したばかりのご令嬢が選ばれるんですけど、今年は学校のほうから推薦があったらしいですよ。是非シンディ様をって・・・エミリー様、今日は髪を束ねることに挑戦してみます」


メイはそう言うと、豊かな髪をふんわりと耳の辺りで一つにまとめた。

耳元の刻印を隠すように、二本の白いレースのリボンを、ふんわりと編み込みこむように巻き付けて柔らかく結んだ。

こうして前に髪を垂らしておけば耳の下が隠れて刻印が見えない。

角度を変えて見ても耳の下が丁度隠れている。

メイは満足そうに笑うと、エミリーに手鏡を渡した。



「ありがとう、メイ。コレが消えるまで、髪を束ねられないと思ってたのに」


「アラン様も、奇麗だって仰るかもしれませんね?」

内緒の声でからかうようにメイが耳打ちした。


「え?・・・いやだわ、メイ。何言ってるの?そんなこと、あるはずがないわ。だってアラン様は、わたしのことそんな風に見ていないもの」


「そうですか?そんなことありませんよ?」


頬を染めたエミリーを見て、メイは嬉しそうににこにこと笑っている。

丁度そこに、身仕度を整え終わったのを見計らったように、部屋にノック音が響いた。


「はーい、どうぞ」


メイが扉に走り寄って開けると、アランがスッと入って来た。

驚いて、急いで居住まいを正して頭を下げるメイ。

いつものように護衛が迎えにくるとばかり思っていた。

すーっと部屋の奥に入ってくるアラン。

鏡の前に座っているエミリーを見ると、ブルーの瞳がフッと柔らかくなった。

夏らしく爽やかに髪を纏めていて、白いレースのワンピース姿が清楚なエミリー。


「おはよう、エミリー・・今日はいつもと違うな・・・」


「・・・おはようございます」


差し出された腕にそっと掴まると、そのまま流れるように歩きだした。


「これからは毎朝、私が君を迎えに参る」


いつもの護衛ではなくアランが迎えに来てくれただけで、エミリーの心は朝から幸せに満たされた。この日の朝食はいつもより数倍美味しく感じた。