シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

朝の時間。新人メイドのナミは3階の部屋にきていた。

メイの代わりに、これからはナミがエミリーを起こしに来ることになっている。

天蓋の中をそぉっと覗くナミ。

この部屋はカーテンが厚くて、朝なのにとても薄暗い。

シフォンのカーテンの中もよく見えなくて、目を凝らさないといけない。

カーテンを開ければ良い話なのだが、この部屋は主が起きてからでないと、カーテンを開けてはいけない決まりになっている。

何故そんな決まりがあるのか知らないが、起こす方にとってはとても不便極まりない。

昨日のことを思い出しながら、ナミは慎重に覗き見た。


昨日、この時間に起こしに来た時は、そういうこともあるとは知らなくて、スタスタと天蓋に近付いてしまった。

多分、ナミが部屋に入った瞬間から気配に気付いていたのだろう。

昨日は存在を主張するように、天蓋の中から大きな掌が出ていた。

びっくりしてよく見ると、天蓋の中には布団の盛り上がりが二つあって、その一つからシフォンの外まで腕が伸ばされていた。

無言だったが”来るな”とでも言うように出されていた掌。


それから感じられた威厳が怖くて、驚いて、ドキドキしながらも、急いで部屋から出た。

後でお咎めがあるかもしれないと、昨日は一日びくびくしていたが、結局何もなかった。


今日の布団の山は一つだけ。よかった・・・今日は一人みたい。

ホッとしたナミはシフォンをサッと開いて、主を起こすように大きな声を出した。


「おはようございます。エミリー様」




「ん・・・おはよう・・・誰?」


ベッドの上に身体を起こしたものの、まだ目が覚めていない様子。

瞳が少しぼんやりとしている。


”朝、エミリー様が呟くように言っている時は、まだ目が覚めていないから。そういうときは、窓のカーテンを開けて日の光を入れてあげてね。そうすると、少しずつ目を覚ますから”

メイの言っていたことを思い出し、大きな窓のカーテンをさーっと開けた。

朝の日の光が部屋の中にいっぱいに、眩しいほどに差し込んでくる。



「エミリー様、今日も良い天気ですよ」


少しふくよかな身体をテキパキと動かし、天蓋のシフォンを全部開けて四隅にたたんだ。

そうするとぼんやりとしていたアメジストの瞳がすっきりと澄んでいった。



「おはよう、ナミ。本当今日も良い天気だわ」


ベッドの上からふんわりと降りて、洗面室に向かうエミリー。

ナミは早速ベッドのシーツを取り替えにかかった。

シーツの取り替えは前の屋敷でもやっていたので、手慣れたものだ。あっという間に整え、シーツを洗濯籠に入れているとメイが部屋に入ってきた。


「ナミ、おはよう」