シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「何度もその話はしたはずだ。アリソン、私はもう君とは逢えない」


ブラウンの瞳から涙が溢れ、薔薇色の頬を濡らしていく。

綺麗にメイクされ、美しく着飾ったアリソンの姿は、大人の女性の柔らかな色香を十分に放っていた。


「それは分かっているわ・・・他に好きな女性がいることも。でも私は、あなたなしでは生きていけないの・・・お願い。パトリック」

アリソンの美しいブラウンの瞳がゆらゆらと揺れ、ブルーの瞳を絡め取る様に見つめる。


「アリソン・・・私は―――――」

パトリックの表情が切なげに歪められた。


「あなたの好きな女性は、アラン様のところにいると聞いたわ・・・そんな、叶わないかもしれない不確かな愛など捨てて、確かな愛を選んで・・・。もう一度、あなたの隣にいさせて・・・。私なら、あなたを幸せに出来るわ」


アリソンの美しい手がパトリックの頬を包み込み、うっとりとした色香を含んだブラウンの瞳がブルーの瞳を見つめた。


「パトリック・・・お願いよ」


パトリックの優しい手が、アリソンの細い肩にそっと置かれた。

アリソンは微笑みを浮かべると、うっとりと瞳を伏せた。

ふっくらした紅い唇が狙いを定めて徐々に近付いていく。

パトリックのブルーの瞳が切なげに揺れ、美しいアリソンの顔を見つめている。


香水の香りがパトリックの鼻をくすぐり、艶々とした紅い唇がパトリックの唇に重ねられる――――


―――刹那、アリソンの色香漂う柔らかな身体が、優しい手でピタッと止められた。

唇が触れる寸前で止められ、ブラウンの瞳を見開いてパトリックを見上げるアリソン。



「確かに、叶わないかもしれない。それでも、私の心も体も彼女を求めてやまない・・・。すまない、アリソン。私はもう、君とは一緒に過ごせない。彼女以外の女性とは、そういう気持ちにはなれないんだ」

ブルーの瞳が優しくアリソンを見下ろしている。


「どうしても・・・どうしても、私ではダメなの!?・・・どうして!?・・・あんなに愛してくれたのに・・・どうして―――――」


パトリックの胸にすがりつき、泣き崩れるアリソン。

数刻後、泣きやんだアリソンの身体を優しく離して、肩にそっと手を添えた。


「すまない・・・家まで馬車で送るよ」

中にアリソンだけを乗せ、黒塗りの馬車は市場通りへと戻っていった。


パトリックは屋敷の門を開け、玄関までの遠い道のりを一人歩いた。

玄関前には煌々と明かりが付き、執事が一人で迎えに立っていた。


「パトリック様、お帰りなさいませ」