シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

急にピタッと止まったせいで、エミリーはよろけて転びそうになった。

その身体を力強く支えられ、そのままスーッと抱き締められた。

「あ・・・あのアラン様・・・急に、どうしたんですか?」

見上げると、ブルーの瞳が遠くを見るように前を見据えていた。


「彼女が庭におる間、護衛は傍を離れたのか?」


後ろで控えて歩いていた護衛に向かって投げられた言葉は、何故か少し震えているように思えた。


「申し訳ありません・・・長官の命で暫し離れておりました」

いつの間にか隣に来ていた護衛は、ずっと頭を下げたままでいる。


「―――良い・・・分かった」

身体を包んでいた腕がパッと離れ、くるっと身体の向きを変えられた。

今度は肩に手が回り、そのまま無言で歩きだした。二の腕に伸びた指が食い込んで、少し痛い。


護衛と交わした短い会話のあとは一度も声を発しないまま、3階の部屋のソファまで誘導された。

隣同士に座っても、アランは口元に手を当てて無言のまま前をじっと見つめている。


―――もしかして、怒っているのかしら・・・。

まさか、呆れてモノが言えないとか・・・。

こんなアラン様の姿は初めて見る。

なんだか部屋の空気がピリピリと、痛い。



じっと前を見据えているアランの横顔をそぉっと覗き見た。

少し潤んでいるブルーの瞳、長い睫毛、綺麗な肌、武骨な指が思案気に唇を覆っている―――考えるより先に言葉が出ていた。


「あの、アラン様・・・ごめんなさい。わたし、何かいけないことを・・・」


下を向いて謝っていると、目の前に腕が迫ってきた。と思ったら、ふんわりと包まれた。

アランの脚はソファの上に乗っていて、逞しい体がしなやかな身体に覆いかぶさるような、そんな態勢になっていた。アランの顎が丁度頭の上にある。そこからふーっと大きな息が一つ吐き出された。


「すまない・・・君が謝ることではない。君は、何も悪くない。これは、私の問題だ」


なんだか辛そうな声。

武骨な指がブロンドの髪をスーッと撫でる・・・


それが移動して肩に触れ・・・背中に触れ・・・腰に触れた。


視界がくらっと揺らいで、一瞬平衡感覚がおかしくなった。

気がついたら、いつの間にそうなったのか、ソファの上に身体は仰向けになっていて、すぐ上にアランの顔があった。


「―――こんなに乱されるとは・・・結構辛いものだな・・・」