シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

さっきまでの厳しい顔つきから一変して、エミリーに向き合った途端に柔らかくなったアランの表情。

こんな顔はやはりエミリーにしか見せない。それに気付いていないのは、当の本人のみ。

いつも向けられている表情なので、自分だけという自覚が、全く無い。


「あのコは思ったより傷が重いみたいで、フランクさんに預けてきました。今治療してもらっています。助かるかどうかわからないみたいです・・・」


小鳥はかなり弱っていた。フランクがいくら名医だとしても鳥は専門外。

助かるかどうかは分からない。

あの高木の鳥は、いつも歌うような囀りを聞かせてくれて、この国に来たばかりの頃の寂しい気持ちを慰めてもらっていた。

また素敵な声を聞かせて欲しい。


「そうか。私も後でフランクに鳥の様子を聞いておく。そのような顔をするな・・・。私まで哀しくなる。きっと大丈夫だ」

大きな掌がいたわるように優しく頬を包む。


「外は日差しが強い。もう部屋に戻ったほうが良い。部屋まで送ろう・・・君は一人で庭に出たのか?」

大きな掌が腰を支えて、政務塔の玄関へと誘導していく。


―――どうしよう・・・一人ではないのだけれど

パトリックさんと一緒だったことを言ってもいいのかしら

このあたたかい手に包まれていると

パトリックさんと庭を散策したこと、半分とはいえ愛を告げられたこと

それが何故かいけないことのような・・・何か後ろめたいような・・・変な気分になってしまう

言ってしまうと、この優しい手が離れてしまいそう

冷たく突き放されてしまいそう―――


どうしてかしら

アラン様にとっては誰と庭に出たかとか、何を言われたとか、

そんなことは関係ないことなのに・・・。


アラン様にとってわたしは家族のようなもの。



でも、ここで変に嘘をついても却って良くないかもしれない。

護衛の方の報告で、きっとすぐに分かってしまうだろうし。

何よりも、嘘つきだと思われたくない。

エミリーはブルーの瞳の様子を見ながら、オズオズと小さな声で呟くように言った。



「あ・・・あの、一人ではないです・・・パトリックさんと一緒にお庭の散策をしたんです。医務室からお部屋に戻る途中で、会って・・・・お庭の散策に誘っていただきました・・・あんな嵐の後なのに、とても奇麗にお花が咲いていて――――っ!?」