シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

シンディは走ってきたせいで紅潮した頬を手で押さえながら、エミリーをじっと見つめた。

「えぇ、わたしエミリーですけど。あなたは?」

「わぁ、やっぱり。話に聞いてた通りの方だわ。・・・私、アラン様の従妹のシンディです。よろしくお願いします」

膝を折って挨拶をしながら、花が咲くような笑顔を見せた。


「―――シンディ、そこで何をしておる?」

エミリーの後ろから威厳のある声が響いてきた。

シンディはエミリーの背後を見て、ぱっと頬を染めて嬉しそうに笑った。

馬車止まりの方からアランが歩いてくるのが見える。


「アラン様!お久しぶりです!」


シンディはアランに駆け寄って飛び込むように抱きつくと、背伸びして頬に唇を寄せた。

「アラン様、お会いしたかったわ!」

そんな可愛い挨拶にも眉一つ動かさず、指一本動かさず、冷静な態度をとるアラン。


「シンディ、本日10時30分より打ち合わせがあると、神官より聞いておるが、行かなくても良いのか?シンディは今年の巫女だろう・・・」

ポケットから懐中時計を取りだすと、途端に眉を寄せて厳しい顔をした。


「もう5分以上過ぎておる。皆を待たせるでない」

甘えるように腕に絡みついているシンディの肩を掴んで、グイッと引き剥がした。

不満げな顔を向けるシンディを窘めるように、アランは頭を優しく撫でた。


「だって・・私エミリーさんにご挨拶をしていて、それに、アラン様の―――」

厳しい顔で無言のまま見ているアラン。


「・・・ごめんなさい。行ってきます」

口をとがらせながらしゅんとして謝ると、シンディはサラサラの銀の髪を揺らしながら急いで政務塔に入っていった。



その背中を見送っていると、燦々と降り注いでいた日の光が何かにスッと遮られた。

振り向くと、アランが太陽を遮るように斜め前に立っている。


「君はどうしてここにおる?護衛一人がついておるとはいえ、あまり出歩かないで欲しい。心配でならぬ・・・」


大きな手が二の腕を掴み、くるっと体の向きを変えられた。

逆光に銀の髪が透けるように艶めいていて、とても綺麗。


「庭に出たいときは、私に一言申せ」

武骨な手がスーッと腰を包み込む。


「ところで、あの鳥はどうした?フランクはなんと申しておった?」