エミリーはモルトの後ろ姿を見送った後、噴水をぼんやりと眺めていた。
アメジストの瞳に映るのは、噴水の真ん中にある天使象。
天使像は、豊かな髪をなびかせ、背中の羽をたたんで柔らかな微笑みを浮かべて立っている。
もしかして、これは神話の天使シェラザードをモチーフにしているのかしら・・・。
”あなたはシェラザードの化身だ”
あの時、シルヴァが言っていた言葉・・・どう考えても、わたしはそんな大層な人には思えない・・・。
つい昨日まで、シルヴァの屋敷にいたのが嘘みたい。
こんなに素敵な庭で穏やかな時間を過ごしていると、あの緊張していた日々が、まるで悪い夢を見ていたように思える。
時折吹く爽やかな風が薔薇色に染まった頬を撫で、花たちをサワサワと揺らす。
噴水の水音だけが辺りに響く。
「エミリー様、そろそろお部屋にお戻りください。日差しが強くなってまいりました」
後ろにいた護衛がいつの間にかベンチの横に立っていて、心配げに声をかけた。
この美しい白い肌にはこの日差しは強すぎる。
袖の長い服を着ているとはいえ、少しでも日焼けしようものなら、この肌は赤く腫れてしまいそうだ。
「分かりました。そうね・・・今度からは日傘を持って庭に出ることにするわ」
心配げな表情を向けている護衛に、微笑みを向けたあと、エミリーはパトリックと一緒に歩いた道を戻り始めた。
美しい花が咲く花壇を抜けていくと、王の塔が前方に見えてきた。
あの新月の夜に会食をした部屋が見える。
―――さっきのパトリックさんの話だと、あの夜には既にわたしのことを想っていてくれたことになる・・・。
でも、今思い返してもそんな素振りは何も――――
出会ったときからそのままの、優しいパトリックさんだったもの・・。
王の塔を通り過ぎ、政務塔の玄関前に近付いていくと、城門側の方から髪の長い少女が走ってくるのが見えた。
「すみません!そこの人・・・今・・・何時ですか?」
息を切らしながら問いかけてくる少女はとても可愛くて、サラサラの銀の髪を風になびかせていた。
「ごめんなさい。わたし時計持っていないの」
「シンディ様、ただ今10時28分です」
後ろから護衛の声が静かに響いた。
「うそ!もう間に合わないわ!叱られちゃう。もう・・・演習場遠いんだもの―――」
へなへなと力尽きたように項垂れるシンディ。
「あの、大丈夫ですか?」
項垂れる銀の髪の間から顔を覗き込むと、アランに似たブルーの瞳がキラッと光った。
「あ!あなたもしかして、エミリーさん?」
アメジストの瞳に映るのは、噴水の真ん中にある天使象。
天使像は、豊かな髪をなびかせ、背中の羽をたたんで柔らかな微笑みを浮かべて立っている。
もしかして、これは神話の天使シェラザードをモチーフにしているのかしら・・・。
”あなたはシェラザードの化身だ”
あの時、シルヴァが言っていた言葉・・・どう考えても、わたしはそんな大層な人には思えない・・・。
つい昨日まで、シルヴァの屋敷にいたのが嘘みたい。
こんなに素敵な庭で穏やかな時間を過ごしていると、あの緊張していた日々が、まるで悪い夢を見ていたように思える。
時折吹く爽やかな風が薔薇色に染まった頬を撫で、花たちをサワサワと揺らす。
噴水の水音だけが辺りに響く。
「エミリー様、そろそろお部屋にお戻りください。日差しが強くなってまいりました」
後ろにいた護衛がいつの間にかベンチの横に立っていて、心配げに声をかけた。
この美しい白い肌にはこの日差しは強すぎる。
袖の長い服を着ているとはいえ、少しでも日焼けしようものなら、この肌は赤く腫れてしまいそうだ。
「分かりました。そうね・・・今度からは日傘を持って庭に出ることにするわ」
心配げな表情を向けている護衛に、微笑みを向けたあと、エミリーはパトリックと一緒に歩いた道を戻り始めた。
美しい花が咲く花壇を抜けていくと、王の塔が前方に見えてきた。
あの新月の夜に会食をした部屋が見える。
―――さっきのパトリックさんの話だと、あの夜には既にわたしのことを想っていてくれたことになる・・・。
でも、今思い返してもそんな素振りは何も――――
出会ったときからそのままの、優しいパトリックさんだったもの・・。
王の塔を通り過ぎ、政務塔の玄関前に近付いていくと、城門側の方から髪の長い少女が走ってくるのが見えた。
「すみません!そこの人・・・今・・・何時ですか?」
息を切らしながら問いかけてくる少女はとても可愛くて、サラサラの銀の髪を風になびかせていた。
「ごめんなさい。わたし時計持っていないの」
「シンディ様、ただ今10時28分です」
後ろから護衛の声が静かに響いた。
「うそ!もう間に合わないわ!叱られちゃう。もう・・・演習場遠いんだもの―――」
へなへなと力尽きたように項垂れるシンディ。
「あの、大丈夫ですか?」
項垂れる銀の髪の間から顔を覗き込むと、アランに似たブルーの瞳がキラッと光った。
「あ!あなたもしかして、エミリーさん?」


