シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「これでどうにか出来そうだな・・・」

腕を組んで、漸く進んだ兵たちの作業を見守っていると、後ろから元気な少女の声が響いた。



「パトリックお兄様!」


振り返ると、銀髪の髪の長い少女が制服のような服を着て、演習場の入口に立っていた。

少女はパトリックと目が合うと、花が咲いたような笑顔を見せた。

サラサラなストレートの髪を風に靡かせて駆け寄ってくる。


「パトリックお兄様!逢いたかったわ」


飛びつくように胸に飛び込むと、少女は甘えるような瞳でパトリックを見上げた。


「シンディ、どうしたんだい?今日は、学校は休みじゃないだろう?」

「今日は月祭りの打ち合わせに来たの」


シンディは背中にまわしていた手を離して、今度はパトリックの優しい腕に掴まった。

「そうか、今年は巫女を務めるって言っていたね。で、もう行って来たのかい?」

自分の腕に絡みつく可愛い少女を、パトリックは愛しげに見つめた。


「まだなの。少し早く来すぎちゃって。で、政務塔にお兄様を訪ねて行ったら、警備の人にここだって教えてもらったの。・・・アラン様もどこかに行かれてて、執務室にはいなかったわ」

シンディは残念そうに口を尖らせた。


「ねぇ、お兄様、あの兵士たちは何をしているの?」

演習場にロープを張ったり、距離を計ったりしている兵たちの様子を、シンディは不思議そうに眺めた。


「あれは、試験会場を作っているんだ。明日兵士たちの試験をするからね。その準備をしてるところだ」

シンディは珍しいものでも見るかのように、兵たちの動きを暫くの間じっと見ていた。


「シンディ、打ち合わせは何時からだい?今はもう10時20分を過ぎたが、まだいいのか?」

パトリックが懐中時計を見ながら声をかけると、慌てて絡みついていた腕から離れ、頬に手を当てた。

顔色がすぅっと青ざめていく。


「いっけない!10時30分からなの。遅れると神官様に叱られちゃうわ!急がなくっちゃ。またね!お兄様」

シンディは背伸びしてパトリックの頬に唇で触れると、長い髪を靡かせて駆け足で政務塔に向かった。


「もう!ここ、政務塔から遠いんだから!」

シンディの怒ったような叫び声が聞こえてくる。

その可愛い後ろ姿を見送りながら、パトリックはクスッと微笑んだ。