シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

エミリーと別れた後、パトリックはウォルターの待つ演習場へ急いでいた。

少しでも想いを伝えることが出来たパトリックは、悶々としていた日々から抜け出し、すっきりと爽やかな気持ちになっていた。

演習場に向かう足取りも軽く、遠い道のりも気分がいい。


演習場に辿り着くと、丁度ウォルターと兵たちが明日行われる試験の会場づくりをし始めていた。

大きな紙を広げて数人の兵たちと難しい顔をして話をしている。


「ウォルター、遅くなってすまない。どうだ?順調に進んでいるか?」

図面のような絵が書いてある紙から目を上げると、ウォルターは驚いたように目を見開いた。


「パトリック様・・・何かあったのですか?」


いつも優しいオーラを放っているパトリックのそれが、今日はさらに威力を増しているように感じた。

それに何故だかすこぶる機嫌がよさそうで、ここ最近ずっと固く結ばれていた唇が少し緩んでいる。


「あぁ、実は、さっき良いことがあってね。今とても気分がいいんだ」



―――まだ手と唇に香りが残っている・・・。

瞳を閉じると、さっき見せてくれた楽しげな笑顔が浮かびあがる。

細くしなやかな身体がすぐそこに、手を伸ばせば触れられるところに、あるように感じられる。

できることなら、あのままずっと傍にいて、彼女の笑顔を見ていたかった。


あとは月祭りの夜に愛を告げて返事を貰うだけだ。

それまでにもう一度でも会えるといいが・・・。



ふと視線を感じて瞳を上げると、ウォルターが困惑気にじっと見ていた。

物思いにふける様子のパトリックを気遣い、声をかけるタイミングを計っているようだった。


「ウォルター、何か問題があったのか?」

演習場を見ると兵たちの作業の手が止まり、さっきから全く進んでいなかった。


「はい。実は―――」

ウォルターが差し出した紙と演習場を見比べたパトリックの眉がスッと寄せられ、思案気に図面を見つめた。

この配置では実寸に合わなくて全ての会場を作ることが出来ない。


―――しまったな。目測を誤っていたか・・・。

演習場と図面を交互に見ながら暫く考え込むと、ペンを懐から取り出した。

その場でササッと新しい配置と数字を書き込み、紙を皆に見せた。

そしてペンで指し示しながらテキパキと指示を出した。

「これでやってみてくれ。ウォルター、ここにいる兵士をこっちにまわしてくれ。その方がスムーズに出来るはずだ。それとこっちの―――」