シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

パトリックさんが、わたしを――――――?


いつも優しくて、お兄さんみたいに思っていた人が


あんな風に想っていてくれたなんて・・・どうしよう・・・



まっすぐに向けられていた瞳はとても真剣で、嘘や冗談を言っているようには見えなかった。

重ねられた掌は優しくて・・・温かくて・・・ほんの少し震えていた。

瞳からは溢れるほどの想いが伝わってきて、わたしは何も言うことも、動くことも出来なかった。

あんなに立派な方がわたしのことを・・・


噴水にはいつの間にか、さっきの白い小鳥が戻って来ていて水を美味しそうに啄んでいた。


”嫌っていないのであれば、考えておいて欲しい。月祭りの夜に、私は愛を告げに行く”



パトリックさんは優しい。いつも助けてくれた。

薔薇園の時もあの男たちから助けてくれたし、嵐の日も雷から守ってくれた。

気付くといつも優しい手があたたかく包んでくれていた。


でも、わたしは・・・わたしの想いは―――――



「エミじゃないか?」


不意に脇から声を掛けられて振り向くと、庭師のモルトがスコップとバケツを持ってにこやかに笑っていた。

「あぁ、いや、エミじゃなくて、エミリー様でしたな。申し訳ありません」

傍に控えている護衛にジロッと睨まれ、慌てて言い直したモルトは、エミリーの前に立って頭を下げた。

「いいんです。モルトさん謝らないでください。わたし、そんな立派な人ではないですから。ただ、アラン様の塔に住んでるだけで・・・。落ち着いたら、またメイドのお仕事をさせてもらうつもりでいるんですよ。どうぞ、ここに座ってください」

エミリーは今までパトリックが座っていた場所を指し示して、座るように促した。

「では、失礼して・・・」


モルトは手に持っていたスコップとバケツを置いて、エミリーの隣にゆったりと座った。

「モルトさん、このお庭を整えるのに、月祭りに間に合うように随分頑張ったと、パトリックさんに聞きました。わたし、こちらのお庭は初めて来たんですけど、花も噴水も凄く素敵でとても気に入りました。こんなに広いお庭のお手入れ、大変なのに、いつもありがとうございます」


エミリーはモルトに微笑みながら、労いと感謝の気持ちを込めて頭を下げた。

「いや、そんな。私は当たり前のことをしているだけですから。しかし、エミリー様にそんな風に言われて頭を下げられたら、何だか立派なことをしている気分になれますな」


モルトは照れながらも嬉しそうに声をたてて笑った。