シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

パトリックは噴水の傍にあるベンチにしなやかな身体を誘導して、座らせた。

噴水の水しぶきがきらきらと日に輝いている。白い小鳥が飛んできて噴水の縁をチョンチョンと歩いた。


「パトリックさんに愛を告げられる方は幸せですね。どんな方なんですか?きっと素敵な人でしょうね」

見上げると、パトリックがブルーの瞳を潤ませてじっとエミリーを見つめていた。そして、迷うような表情を浮かべた後、エミリーの隣に静かに座った。



「彼女は、そうだな―――可憐で美しくて、とても奇麗な心の持ち主だ。私は彼女に出会ったときから心を奪われていたと思う。だが、彼女には滅多に逢うことが出来ない。手が届きそうで届かないところに、いつも居る。逢いたいのに、逢えない。私はいつも切ない思いをしているんだ」



膝に置かれている白く美しい手の上に、優しい手がそっと重ねられた。

もう片方の腕はベンチの背もたれの上に伸ばされ、いつでも細い肩を包めるようにしていた。


パトリックのブルーの瞳が日の光を受けてキラキラと切なく揺らめく。


「パトリックさんに、そんなに想われているなんて、その方はとても幸せですね。何処に住んでるんですか?滅多に逢えないと言うと―――どこかの国の姫君とか?」


パトリックは暫く固まった後、さも可笑しそうに吹き出した。


「そんな遠くではなくて、もっとずっと近くにいる。そうだな・・・彼女は私がこんな想いをしているとは、きっと知らないだろう。今もこうして、滅多にないチャンスを逃さないようにしっかりと捕まえているのに、きっとそれも分かってはいない」

パトリックが甘い微笑みを浮かべて、俯きがちなエミリーの顔をスッと覗き見た。


「え・・・パトリックさん・・・?」


爽やかな風がすぅっと紅潮した頬を撫でていく。

艶めくブロンドの髪がふんわりと揺れる。

風の悪戯が、首の三つの刻印をチラッとパトリックに見せた。


ブルーの瞳がその一瞬を見逃さず、背もたれにまわしていた手を首元に近付け、髪を中指でスッと避けると、白く美しい肌に印が三つ紅く色づいているのが見えた。

優しい指がそれをスッと辿る。何故三つもついているんだ?



「コレは、アランがつけたものか?―――確認するが―――君は・・・3階の部屋に移動したと聞いた。君はもう―――その・・・アランの愛を受け入れたのかい?」

少し言い淀みながら発する言葉は、珍しく声が少し震えていた。

これから愛を告げようというのに、愛しい人は既に人のモノでは、全く洒落にならない。



ブルーの瞳が哀しげな色を湛えて、少しの表情の変化も見逃さないように、エミリーをじっと見つめていた。