フランクに小鳥を預け、廊下を歩いていると、向こうに銀髪で長身の人が歩いているのが見えた。

アランよりも髪が短くて、歩き方が優雅な人。


「パトリックさん!」

呼びとめると、ぱっと振り返って足早に近づいてきた。銀の髪がふわりと揺れる。


「おはようエミリー。どうしてここに君がいるんだい?」


パトリックは瞳を愛しげに染めながら、奇麗なアメジストの瞳を見つめた。いつ見ても可愛くて愛おしい。


「フランクさんに用事があって、来たんです」

「フランクに?君の診察かい?」


「違います。私の診察ではなくて。朝、怪我をしている小鳥をテラスで見つけたんです。治療してもらって連れ帰ろうとしたんですけど、思ったより傷が深いみたいで、フランクさんに預けてきました。パトリックさんは今からお仕事ですか?」

「あぁ、今から兵の―――」


パトリックは言いかけた言葉を飲みこみ、思案気に瞳を伏せた。


―――今から兵たちの試験の段取りに行くところだが、それは暫くウォルターに任せておけば良いだろう。

いつも塔の奥に居る君に、こんなところで会えるとは。

こんなチャンスは滅多にない。これを生かさなければ、この次はいつ会えるか分からない・・・。


「エミリー、私に少し時間をくれないか?君に話したいことがあるんだ」

エミリーの手を握ったパトリックの手が、何故か少し震えている。

「え・・・?お仕事はいいんですか。どこかに行こうとしてたのではないんですか?」

首を傾げて見つめるエミリーに、パトリックの気持ちがどんどん昂っていく。


「いいんだ。仕事は後でも出来ることだ。だが、君と話が出来るチャンスは今しかない。私が、仕事と君とどちらを選ぶかと問われれば、答えるまでもないことだ」

エミリーの手を優しく握り締め、これ以上にないほどの甘い微笑みを向けた。


そして、後ろに控えている護衛に鋭い瞳を向け、暫く離れているように視線で促した。

しかし、護衛はアランの命を受けているため、そう簡単にはエミリーの傍から離れることは出来ない。


「パトリック様、私共は”如何なることがあろうと傍を離れるな”との命をアラン様より受けております」

負けじと護衛の鋭い瞳がパトリックを見つめた。

そんな護衛の体を鋭く観察するパトリックの瞳が、手に向けられ、瞳に向けられ、護衛が放っている気を感じ取った。


―――なるほど。気勢も実力もウォルター並か・・・これは3階の兵だな。


「この私が傍にいると言うのに、君はそれでも離れないと言うのか?この私では彼女を守りきれないと、君はそう思うのか?」