エミリーは政務塔の廊下を小鳥の入った籠を抱えて歩いていた。

髪は首元の刻印を隠すため、おろしたままアクセサリーのみ付けられている。


何故か三つに増えていた刻印。


“コレは半端な気持ちではない”


あのときは何のことを言っているのか分からなかった。

もし、このことを言っていたのだとしたら、どういうことなのだろう。

ひとつはシルヴァの刻印の上書きだとして、後の二つは何故―――?

”半端な気持ちではない”って、どういうこと?

馬車の中で妙に長く抱き締められていたのは、この刻印をつけていたため。


まさか、アラン様がわたしのことを―――?

・・・うぅん・・・期待しちゃ駄目・・・。

一晩中ベッドの中に一緒にいながら、何もなかったことが何よりの証拠。


わたしは、アラン様にとっては妹―――

気にかけて貰えるのも、大切と言って貰えるのも、そんな気持ちからで

決して特別な想いからではないわ・・・自惚れてはいけない。


「エミリー様、医務室はこちらです」


ぼんやりとしながら歩いていたエミリーは、後ろで控えて歩いていた護衛の言葉に、ハッと我にかえった。

そうだった、今はこのコの治療に来たのだった。


「フランクさん、居ますか?」

医務室を覗くと、フランクが眼鏡の奥を潤ませ、嬉しそうに立ち上がった。

「エミリーさん!?よく御無事で・・・。あんなことになったのは私の責任であると、何度も王子様に死罪を申し出ておりました。このまま戻られなければ、命を絶とうとさえ考えておりました。エミリーさん、申し訳ありませんでした。良かった・・・本当に良かった」

年甲斐もなく、涙まで流す勢いでエミリーに向き合うフランク。そんなフランクに感化されたのか、隣では助手までもが目頭を押さえていた。

「そんな、フランクさんのせいではありません。あの時は、わたしが不注意すぎたんです。ウォルターさんに気をつけるように言われていたのに。ご迷惑掛けてしまってすみません。あのあと、健康観察は終わりましたか?」

「はい。いろいろありまして、受けていない方もいますが、無事に終わっております。ところでエミリーさん、その小鳥は・・・?」

フランクは眼鏡の奥を真剣なものに変え、籠の中で、ふんわりとした布の上に蹲っている小鳥を見つめた。


「・・・これは、かなり弱ってますね」

小鳥の羽を見ると、かなり深い傷を負っているのが分かった。

何か鋭いもので何度もつつかれたような。

「このコ、助かりますか?」

小鳥の体を調べているフランクにエミリーは心配そうに尋ねた。

「わかりません―――暫くの間、私に預けて下さい」