「失礼致します」

メイがゆっくりとドアを開けてくれたその部屋は、さっきまでいた寝室よりかなり小ぶりで、左脇には小さな暖炉があった。


壁際に置かれた書棚にはエミリーには読めない文字で書かれた背表紙の分厚い本が沢山収まっている。


その文字を見ると、改めてここがエミリーの知らない世界だということが分かる。


まるで書斎のようなこの部屋の奥の窓のそばには豪華ではないがしっかりとした作りの机があり、それに対する椅子にはアランが座っていた。



アランは羽根ペンを書類にはしらせていた手を休め、エミリーの方を向くと一瞬目を見開いた。



「馬子にも衣装というのは本当だな・・・」


俯いてぼそっと呟いた一言は、緊張しているエミリーの耳にはとても遠く届かない。


顔を上げ両肘を机について手を組むと、深いブルーの瞳が鋭く光りエミリーを見据えた。



「助けていただいてありがとうございます。お食事も御馳走になり、おまけにこのようなドレスまで。感謝いたします」

エミリーは感謝の気持ちを込め、アランに向かって丁寧に膝を折った。



「君はわが国の保護地であるシャクジの森にいた。

あそこで何をしていた? 何の目的でこの国に来た?

侵入した賊が消えたのがあの森だ。君は、賊の一員か?」



―――森って・・・わたしがいたところ・・・。

でも、覚えているのは激しい痛みとくらくらする視界。

あとは草と花の香りだけ。 賊って何?

わたし、疑われてるの?  もしかしたら、牢屋に入れられる・・・?



矢継ぎ早に発せられる質問攻めに、しどろもどろになりながらも必死に言葉を発した。


「ゎ・・・わたしはエミリー・モーガンと申します。

国はイギリスで、あの日は父の書斎の整理を手伝っていたら、窓から落ちました・・・。 

それから・・・どうなったのか。

どうやって、森にたどり着いたのか分かりません。

気が付いたら、あそこにいたのです。

・・・決して、賊の一味ではありません・・・信じて下さい・・・」



最後は絞り出すような声でそう言うと、

アメジストの瞳には溢れんばかりの涙が滲んできた。