開け放っていた扉の向こうに、いつの間にかアランが立っていた。

既に着替えを済ませていて、食堂に向かう途中のようだ。


「しかし、アラン様―――いえ、承知いたしました」

姿勢を正して真っ直ぐにアランを見て頭を下げた護衛は、差し出されているアランの手を見て、戸惑いの表情を見せた。

この手は何を自分に要求しているのか。まさか、鳥を渡せということなのか?

そんな、このようなことにお手を煩わせるなど―――。

護衛は威厳のあるブルーの瞳と差し出されている手を交互に見つめた。

ずっと無言だが、この手が要求されていることは多分そうなのだろう。

護衛は、大きな掌に丁寧に小鳥を乗せると、すかさず後退って頭を下げた。



メイはそんな護衛の様子を興味深げに見つめていた。

さすがに3階を任される兵は何か違う。

規律正しくて冷静で、とても信頼できそう。

2階を警備している、やたらと愛想のよい兵の顔を思い出し、メイは苦笑いをした。



エミリーはアランの手の上でぴくぴく動く小鳥を、戸惑いながらも掌でそっと受け取った。

手の中の小鳥は少しでも強く握ると、命の灯が消えてしまいそうに弱々しい。


「この怪我はフランクに診てもらうと良い。それにしても・・・。全く、君は・・・」

―――まさか、この姿を護衛の目に晒すことになろうとは。ローブを羽織っているとはいえ、全く無防備極まりない。

アランは下着のままのしなやかな身体を護衛の目から隠すように立ちはだかった。


「アラン様、わたし、フランクさんのところに行ってきます。メイ、何か適当な籠は無いかしら?この子を入れたいの」


「待て、エミリー。分かっておると思うが、服を着るのが先だ」


くるりと踵を返して動き出そうとする身体を、寸でのところで抱きとめたアランは、護衛をチラッと一瞥した。

護衛は何食わぬ顔で立っていたが、アランの気を察知したのか、頭を下げて部屋から出ると、無言で開け放ってあった扉を閉めた。

エミリーは自分がどんな姿をしているのか漸く思い出したのか、今頃になって頬を染めて慌てふためいている。

メイの差し出した籠に小鳥をそぉっと入れると逃げるように洗面室に入っていった。


「メイ、今日の朝食はここに運ばせる故、ゆっくり致せと申し伝えよ」

洗面室か・・・。鏡に映る姿に驚く顔が目に浮かぶな。

先程私が申したことを理解しておれば良いが。

何故か不安に感じてしまう。

彼女は何かこう―――鈍いというか、自分を卑下しているところがある。

私にとって、君は誰よりも気高く美しいのに。