アランが部屋から出ると、護衛がさっと頭を下げた。

「ご苦労。彼女はまだ支度に時間がかかる。メイドが参るまで扉を開けてはならぬ。良いな」

護衛は黙って再び頭を下げると、寝室に戻っていくアランの背中を盗み見た。

確か、今笑っておられたような―――気のせいか?


『きゃぁぁっ!』


小さな叫び声が護衛の耳に届いた。すぐさま腰の鞘に手を当て、身構えながら扉の向こうに声をかけた。

「エミリー様いかがなされましたか!?エミリー様!?」

部屋に入りたくとも命令に背くことが出来ない。護衛はジリジリと焦りながら扉を睨んだ。


「おはようございます。どうかしたんですか?」

「メイ、丁度いいところに来られた。エミリー様の叫び声が中から聞こえた。扉を開けてくれ」

護衛は扉の前から脇に避けると、剣に手をかけて身構えた。

メイが恐る恐る扉を開けると、護衛が脇に避けるように目で合図した。

護衛が部屋の中を見ると、下着姿のエミリーが窓際で蹲っているのが見える。

慎重に部屋の中を見渡し、身構えながら静かに部屋の中に入って蹲っている身体を守るように脇に立った。

「エミリー様、大丈夫でございますか?」

「はい・・・大丈夫です。ごめんなさい、わたし驚いてしまって。テラスに―――」

護衛がテラスを確認すると、白いテーブルの下に小鳥が力なく横たわっていた。

・・・もしや、これのことか?

触ってみるとピクリと動いて、羽をパタパタと力なく動かしている。

「エミリー様、まだ生きております」

護衛は小鳥を掴み、部屋の中にいるエミリーに見えるように差し出した。

メイにローブを羽織らされ、身体を支えてもらいながら護衛に近付いたエミリーは、掌の中でピクピクと動いている小鳥を心配そうに見つめた。

高木の巣にいたヒナによく似ているが、もう巣立ったのだろうか。

よく見ると、片方の翼に怪我をしていて奇麗な羽を赤く染めている。

「多分、大きな鳥にやられたのでしょう。これは、私が始末しておきます。ご安心ください」

そう言うと、護衛はスタスタと歩きだした。

「待って。始末って、その子をどうするのですか?」

「森の中に置いてきます。これに力があれば、生き延びるでしょう」

護衛はそう言いおいてスタスタと歩いていく。

「待って!その子はわたしに任せて。わたしがその子の面倒をみます。お願い・・・そのままでは餌も食べられなくて、死んでしまうわ」

アメジストの瞳を潤ませ、護衛を真っ直ぐに見つめた。

「しかし―――」「お願い・・・」


「彼女の願う通りにせよ」