―――“シャルルおいで。いいもの買って来たわよ”

エミリーが買ってきたネズミのおもちゃを前に置くと、シャルルは鈴を鳴らしながら体を起こして、大きな瞳をランランと輝かせた。

獲物を狙う様は野性的で、でも夢中で遊ぶ姿は可愛くて、飽きることなくずっと見ていられた。

さっき鈴の音が聞こえて、てっきりシャルルが傍にいると思ってしまった。

ここは故郷から遠く離れた世界だからいるはずがないのに・・・。

銀色の綺麗な毛並み、大きな瞳が可愛いシャルル。今ごろどうしているかしら。


「シャルルは、故郷で一緒に住んでいたわたしの大好きなコなんです。いつでも、どんなときもわたしの傍にいてくれました。寂しいときや悲しいときは慰めてくれたり、嬉しいときは一緒に喜んでくれたりして。抱き締めるととてもあたたかくて・・・癒されて。いつも一緒に眠ってくれた、わたしの大事なコなんです」


冬になるとよく膝の上に乗って眠っていた。あまりに可愛くて、動くことが出来くて、よく困ったっけ・・・。

思い出にふけるエミリーの表情がすぅっと柔らかくなっていく。

でもそれは、少し寂しげで哀しそうにも見える。


「君は、今も会いたいと思っておるのか?その・・・今もその者を大切だと、想っておるのか?」

少し言い淀みながら、真剣な表情で問いかけているアランの瞳が、少し哀しそうに揺れた。

「えぇ、会いたいと思っています。できれば、抱き締めたいです」

「そんなに、深く想っておるのか?」

ブルーの瞳がますます哀しそうな色に染まっていく。

「とても可愛いんですよ。会えば、アラン様もきっと気に入ると思います」


―――可愛い?

アランは目の前で寂しそうに笑うエミリーを訝しげに見つめた。


「シャルルは機嫌がいいとゴロゴロと喉を鳴らすんです。反対に機嫌が悪いと爪で攻撃してきて、気まぐれで、言うこと聞かなくて、でもそこが可愛くて大好きなんです」

エミリーは語りながら懐かしげに微笑んだ。

「・・・喉を鳴らす?」

アランの瞳が思案気に伏せられた。

「確認するが・・・もしや、シャルルは人ではないのか?」

「え・・・?はい、人ではなくてネコです。ギディオンにもいますか?」

「ネコ?」

ブルーの瞳が見開かれ、一瞬の後声を殺して笑い出した。

「・・・アラン様?」

「いや、すまぬ・・・。ネコはギディオンにもおる。だが、そのように人と一緒に暮らすことはない」


何がそんなに可笑しいのか、笑いが止まらないといった風情のアラン。

―――こんなアラン様は初めて見る。こんな風に笑うのね・・・。

ボーっと見つめていると、笑顔がどんどん近付いてきて、気付いた時には額に唇が乗っていた。


「先に食堂に行っておる。君はゆっくり仕度するが良い」