慶志朗は、春以来、仕事の引き継ぎや残務処理に忙しく、 祐雫とゆっくり話をする時間さえ見つけられないでいた。 何度か晩餐会で一緒になったのだが、ひと言ふた言会話しただけで、 取引先や学友、幼馴染などの人波に呑まれてしまい、 親密な会話ができない慶志朗だった。 麗華や琳子との交際中は、無理をしてでも、 義務感で時間を作っていたが、 祐雫との交際は、慎重に進めたかった。