記憶混濁*甘い痛み*


「……あたしは、キリストなんか、神様なんか信じない」


美弥子が沈黙を破り、吐き捨てる様に言った。

悔しそうに肩を震わせて、泣くのをこらえている。


泣いたら、密かに酒絶ちをし、願掛けをしている

『友梨が幸せになれますように』

……と、いう願いが、叶わなくなりそうな気がした。




友梨が幸せになる為の条件が和音が不幸せになる事だとしたら

自分達には何が出来るというのか------  


友梨は、キリストを裏切れない。


だからきっと、和音を見つめる事など、もう出来ない。





所詮それすら、友梨の中では

『たにんごと』

なのかもしれないけれど。




当人達には当人達の。

見守る側には見守る側の。






『痛み』が、ある。


けれど今の和音に、それを受け入れるだけの余裕など。





ある筈がなかった。