「迷っている男の顔に見えますか?今の……オレの顔が」


「……!」


和音の視線に、声に、友梨の魂が揺さぶられてしまう。




……どうして?

どうしてお兄様でなく、目の前にいるこのオトコのヒトに私の胸は切なく痛み甘い傷が作られるの?

清らかな私でいたいのに。

そういう私を見ていて欲しかったのに。

なのに今、私は自分のせいで汚れを晒している。


…どうして?

どうして、条野さんが私を狂わせるの?

私はその甘い狂気に身体ごと浸かってしまいたいと思っているの?


私は、条野さんに……

『ケガサレタイノ?』




でも、私には……




「原罪に触れます!私はユダにはならない!心と身体を清め…夫だけを見つめていきますわ…貴方を惑わせたのは…私じゃない…私は…エピキュリアンにはならないわ!」


友梨はそう言うと和音の腕から逃れて立ち上がり、足をもつれさせながら走って行ってしまった。





「…オマエの夫は…オレだろーが」


和音は、強くなった雨に身体を濡らしながら、はは…と、小さく笑う。