「絹代ちゃんのお兄さんに赤紙?」



蛍詩に外出の許可をもらった少女は軽い足取りで友人の家へ向かった。
いつもなら玄関で名前を呼べば、絹代はバタバタと勢いよく姿を現すはずなのだが、今日は珍しく彼女の母親に迎えられた。


「そうなの…。今日は恒雄(ツネオ)の出兵のお祝いやから絹代遊べんねん。ごめんな……」



「お祝いなんやろ?何でそない泣きそうな顔してんのや?」


いつも笑顔を絶やさない絹代の母は今にも泣いてしまいそうな表情をしていた。

赤紙の意味を知らない幼い少女の純粋で残酷な言葉は母親の顔を益々悲しいものにさせた。


赤紙とは、政府からの召集令状。つまり戦争の駒として使われるのだ。
赤紙が届いてから24時間以内に所定の場所に投稿しなければ非国民として重い罰を受けることになる。



(おかしな祝い方やな)



まだ幼い少女は何も理解していない。