賑やかな時間が過ぎ、蛍詩はバケツに入った残りの水を柄杓(ヒシャク)で花壇に撒いた。



空になったバケツの中に柄杓を入れ、元の場所に戻そうと立ち上がる。




――カタ…




「?」



庭からでも聞こえた不可解な音。
それは玄関からだった。



――パタパタ……


耳を澄ませば家から遠ざかる足音も聞こえた。

とりあえず、バケツを手に蛍詩は玄関へ向かう。



玄関に何か異変はないかと辺りを見回してみたが、特に変わったところはないように見えた。


しかし、一ヶ所だけ変化していた。



「……」


玄関の引き戸に一通の茶封筒が挟まれていたのだ。


夏にしては妙に冷たい風が蛍詩の頬を掠めていく。