「そうなるとあんたの名前なくなってしもたな」 蛍詩という名前を預かった少女は大きな瞳でじっと男を見た。 「…気張ってこいや。………おとん」 男は一瞬耳を疑ったがすぐに優しく笑った。 「帰ったらちゃんと名前返してな。お前におとん呼ばれるんはやっぱりしっくりこんわ」 「うちかて言うてて気持ち悪いわ!!」 万歳で見送るでもなく、おめでとうと作り物の笑顔で日の丸を掲げるでもなく、二人の別れは買い物に出かける父と留守番をする娘のようなありふれた親子の風景だった。