「お――!キュウリちゃんとできとるやん!!」



蛍詩から深緑の大きなキュウリを受け取った少女は子供らしくはしゃぐ。



「もうすぐトマトとスイカも採れるかな」


「ホンマ!?蛍詩立派な主父やで!」


「はは」


背に乗っかりバタバタと暴れる少女を全く気にすることなく蛍詩は小さく笑った。


「なぁ蛍詩ー。今日絹代(キヌヨ)ちゃんち遊びに行ってもええ?」


今度は首に腕を回し、少女は猫なで声で蛍詩の様子をうかがいながら問いかけた。


「ええけど暗くなる前に帰ってくること。いつ警報が鳴るかわからんからあんまり遠くで遊ばないこと。防災頭巾を持っていくこと」


今は第二次世界大戦の真っ只中。二人が住む場所は大阪であるから空爆を知らせる警報が鳴る事は少ない。

しかし今の日本はどこも予断を許さない状態ということに変わりないのだ。


「やった――!!蛍詩愛しとんで!」


防災頭巾片手に軽々と塀によじ登り、振り向いた少女は蛍詩に満面の笑みを見せる。



「知っとる」



塀の上の少女を見上げるような形で、蛍詩は温かい笑顔で見送った。