その時だった。




「へくしゅっ!」

「!」


やっぱりだ。

今度は確実に聞こえた。



「誰だ!?」


俺は扉から手を離し、声のボリュームを抑えながら叫んだ。



さっきの俺の声に反応しなかったってことは、身を隠してバレないようにしてたってことだ。




「誰かいるんだろ!?」


声は、マンションとその隣の空き地との間にある、細い道から聞こえた。



こんな時間にこんなところで一体なにをしているのかはわからないが、怪しさは十二分だ。



俺は静かにそこへ近づき、暗くて細い道をそっと覗き込んだ。



そこには、誰かが捨てたのか。

はたまたマンションの住人のモノなのか。


小道のすぐ入り口のところで、赤いマウンテンバイクがマンションの白い壁に寄りかかっていた。




そして、そのすぐ横。




「………誰、だ……?」



黒いロングコートに身を包んだ女の子が、寒さに身体を震わせながら、こちらを不安そうに見上げていた。