女を掴む手の力を強めて、
壁に押し当てた。
「今から、襲うことだってできるけど――…」
女は表情を強張らせる。
「――ぁ、えと…」
「…なーんてね」
俺が笑うと、女も少し安心した表情を見せた。
百面相だな。
「…?」
「おあいにくさま。俺は女が嫌いなもんで。襲う気なんてありません。」
手をパッと離す。
「バカッ………こわ、かった…」
自分で誘ったクセに。
目の前で泣きそうな女を、俺はぎゅっと抱き締めた。
…女ってこんなにちっちゃいのな。
手の中の女は驚くほど小さくて柔らかかった。
「もー、自分から誘ちゃダメだよ?他の男だったら即襲うからね?」
子供をあやすように優しく言った。
「でも私……男にペースを持ってかれるのはあんたが初めてだわ」
何言ってんだよ。
さっきまではあれほどに怖がって、泣きそうにしてたクセに。
「お前何言ってんだよ…」
「お前って言わないでよ。私の名前はくるみ!」
「くるみ……」
「あなたは!」
くるみは真っ赤になりながらも言った。
「熊谷南雄…これ本名ね」
「ナオ…私のことも嫌い?」
くるみが唐突に聞いてきた。
そんなことを聞かれても、会ったばかりだし。
それにこいつも…
「"女"だからな。」
女はまた泣きそうな顔で、
「じゃあ…私のこと、女として見ないで。」

