そうして空き家の少し手前で、私はタクシーを降りた。 着物なんか着て、こんなところまで来るなんて、馬鹿みたいだった。 でも、私はどうしても彼に会いたかった。 会うだけでいい。 何も話さなくても、ただ―― 「――」 着物を乱さないように、しずしず歩きながら、私は中に入った。 会いたさに反比例するように、体はひどく鈍く動いていた。