昨日。

 仕事を終えて車に向かっていた俺を呼び止める声がした。



「三山さぁん」

 振り返ると、従業員通用口から飛び出してきた由美奈ちゃんの姿があった。

「待ってくださぁい」

「え?」
 
―――俺、なんか忘れ物でもしたっけ?


 首を傾げる俺の所に、彼女が全速力で走ってくる。



 しかし。



 ここは砂利の敷かれた駐車場。

 足元が悪い。


「そんなに慌てたら転ぶよっ」 

 と、俺が言い切る前に、少し大きめの石につまづいて、由美奈ちゃんがよろけた。



「きゃぁっ!!」

「危ないっ」


 とっさに駆け寄って、前のめりになった彼女の肩をつかんで支える。



 今回は胸に抱きこむようなことはしなかった。

 しょっちゅう抱きしめていたら、彼女に警戒されてしまうからな。




「ふはぁ、びっくりしたぁ」
 由美奈ちゃんは大きな瞳をぱちくりしている。


「ははっ、こっちもびっくりしたよ」
 彼女がしっかり立てる体勢になったのを見計らって、俺は手を放した。

「驚かせちゃってごめんなさい」
 由美奈ちゃんがぴょこんと頭を下げる。



「ううん、気にするほどじゃないよ」

 申し訳なさそうに肩をすぼめている彼女に微笑んでやった。