「えっ、そうだったけ?」
 俺はわざとらしくとぼける。


「それは・・・・・・。
 ほ、ほら、部屋で1人で食べる食事はなんかむなしいなって感じてさ。
 店で食べれば、誰かがいるし」


「ふぅん、なるほどね。
 だったら早く彼女作れよ。
 そしてさっさと結婚しちまえ」
 
 入社時期は同じでも、結婚に関しては先輩の水田が俺の肩を叩く。

「ははっ、そんな簡単なことじゃないよ」
 


 外したサロンを丸めていると、赤川がニヤニヤしながら俺に近づいてきた。

「ミートパイが焼けたら、席に運んでおきますねぇ」


―――くそっ。
   こいつは俺が食事をしていく本当の理由を知ってんだよなぁ。


「ああ。
 よろしく、なっ」
 誰からも見えない角度で、奴のみぞおちに肘鉄をお見舞いしてやった。
 
 もちろん軽く。



「う゛っ」
 しかし奴は大げさに顔をしかめる。

「三山さん、ひどいですよぉ」

「うるさい!にやけるお前が悪い!」 



 そして俺はこっそり赤川の耳元で言う。

「この件に関して誰かに言ったりしたら・・・・・・。
 どうなるか分かるよな?」


 目線を作業台脇に備えられた俺の包丁に向けて、意地悪くニヤリ。
 
 すると赤川は無言でコクコクッ、と何度もうなずいた。