「あ~、そうかもしれませんね。
 両親もお兄ちゃんもお酒大好きですもん。
 間違いなく、私、酒豪になりそうです」

「へぇ、田口さんのご家族はみんなお酒飲むのね。
 ウチの人たちはまったく駄目なのよね。私がグラスにちょっと飲む程度よ」
 俺の隣に座る女性が会話に参加してきた。


 今日の席はくじ引きで決められていて、俺の右に田口さん。

 左には事務員の高橋さんがいる。


「高橋さん。
 お子さんは大丈夫なんですか?」
 34歳の彼女には6歳になる双子の男の子がいる。

「あ、平気、平気。
 主人が昨日から休みで家にいるのよ。
 私だってたまには羽を伸ばさなきゃね」
 ビールのグラスを片手にウインクをよこした。


―――くじ引きで席を決めるのはいい案だな。
   普段なかなか顔を合わせない人とも話せるし。


 どの席も厨房スタッフ、ホールスタッフ、事務員などが調度よく入り混じっている。


 何気なく視線を廻らせていると、横並びになったテーブルの一番端に座る柏木さんのところに、店長の玲子叔母さんと山岸さんがやってきた。


 3人でなにやら話し込んでいる。


 ・・・・・・と言うよりも、柏木さんに確認を取っている感じだ。

 大人2人の言葉に、柏木さんが何度もうなずいている。



―――どうしたんだ?
   給料の振込みのことかなぁ。

 大好物のイカの沖漬けをつまみにビールを流し込んでいると、その疑問の答えが店長の口から伝えられた。



「はぁい、みんな。
 注目~!!」
 立ち上がった店長がパンパンと手を鳴らし、みんなの意識を自分に向けさせる。


「クリスマスに臨時で入ってもらった柏木さんですが、正式にバイト採用することにしました」

 おおっ、と言う声と共に拍手が鳴り響く。


「同じ店で働く仲間として、優しく、厳しく面倒見てやってね」



 店長が言うと、横に立っていた柏木さんがぴょこっと頭を下げた。

「お店の評判を落とさないように頑張ります。
 よろしくお願いします」


 再び拍手の嵐。