「三山さん、彼女はいないんですか?
 ・・・・・・本当に?」
 
 いつもは素直な彼女が、今回はなかなか納得してくれない。

 何かを探るように、じっと俺を見つめている。



 そんな由美奈ちゃんを、ちょっとだけ変だとは思った。

 けど。

『こういう話に興味がある年頃だからかな』と、勝手に解釈。

  

 信号が青に変わり、俺は前を向く。

「うん、本当。
 俺みたいな料理バカに付き合ってくれる人なんて、いないんじゃないかなぁ」


―――由美奈ちゃんと付き合いたいけどさ。
   はぁ、言えないよなぁ。



 アクセルを踏み込み、車を進める。



「そうですか。
 よかった」
 と、小さく、小さくつぶやいて、由美奈ちゃんは微笑んだ。



 でも。

 前を見て運転に集中していた俺。



 そんな彼女の言葉が耳に届くこともなく・・・・・・。


 


 俺の気がつかないところで、『2人の恋』が動き出した瞬間だった。