「ははっ、ごめん。
 お詫びに今夜おごるから、ちょっと付き合ってくれないか?」

「珍しいですね、僕を誘うなんて」
 嬉しいというよりも、驚いた顔の赤川。


「まぁ、柏木さんのことを知ってるのってお前しかいないし」

 人に話を聞いてもらえば、少しは俺の気持ちは軽くなるのだろうか。



 今の俺は自分でもどうしていいか分からず、誰かにすがりたかった。

 いい年した大人でも、心がめげてしまう時があるのだ。




「・・・・・・人に話したくなるほど、煮詰まっているんですか?」

 おちゃらけたいつもの赤川はそこにはいない。

 本気で俺の恋の行方を案じる、真剣な顔。



「どうだろ。
 それすら分かってないや」
 赤川の向かいの椅子に、どっかりと腰を下ろす俺。



―――人を好きになるのは、楽しいことばっかりじゃないんだな・・・・・・。

 今更、そんなことに気付く。



 深いため息をついている俺がよほど深刻そうに見えたのか、赤川は俺の誘いに乗ってくれた。

「僕でよければお付き合いしますよ。
 たいした役にも立たないでしょうが」

「いや、話を聞いてくれるだけで十分だ。
 場所はいつものところでいいよな」

「いいですよ」



 奴の返事を聞いて、少しだけ気が楽になった。