別に悠呀君が嫌いで言ってるんじゃない。

けど、兄貴との方が姉貴には良い恋をしてるような気がしてた。

悠呀君は元々クールだとも聞いてたが、姉貴が好き過ぎるのか、シツコさもあった。

同じ男として、面倒に見えた。

オマケに車が優先だったし、恋愛初心者だった姉貴は合わせるばかりで、我が儘も言えない、窮屈な空間でどこか背伸びしてて。

疲れるのも時間の問題のように見えた。

その点、兄貴は男から見ても良い男だった。

例え姉貴が背伸びしようと、屈むと言うか、目線を合わせに来る。

恩着せがましさがなくて、無理に歩幅を合わせずとも立ち止まって待ってるタイプ。

そんな男はなかなか居ない。

俺には真似出来ない。



「それでも悠呀を引き摺ってた位、好きだったんだろ」



「そりゃあ初めての男だから引き摺るって。こうと決めたらこう。親父と一緒で頑固というか真っ直ぐというか。確かに好きだった事は事実でも、恋をしようとしなかったのは、また失うのが怖かったから。恋してはいけないと思ってたんだろ。あの姉貴だから、自覚なかっただろうけど」



同じ刑事課になるまで、思春期を迎えてから交わる事を避けた俺たち姉弟。

けど、家族であるだけわかる。

見た目は母親似でも、性格は親父そっくりだし。

タクシーが署の前に着き、兄貴は俺に何も返さずに支払いをする。