親父は無理にでも捕まえなかったかも知れない。

だけど、優先すべきは兄貴と姉貴の気持ち。



「……娘に、声を掛けて来ます」



兄貴にまで言われては、もう庇い切れないと判断したのだろう。

母親がドアを閉じないように押さえてる為、逃げる事なく家に入って行った。



「……七星か」



ジャケットの内ポケットで震える携帯に気付き、取り出せば七星から着信。



「もしもし」



『斗真君、すぐ戻って来て!愛依ちゃんが暴れてる!!医務室のドアを磯村さんと押さえて閉じ込めてるけど、壊れるのも時間の問題だよ!!;;』



玄関から少し離れて出ると、七星が焦ってる。

電話の向こうでは“斗志樹!”と叫ぶ姉貴の声。



「姉貴が兄貴を呼んで暴れてる!!」



電話を切りながら伝えると、親父が「行け!」と言ってる。

母親に「あんたも行きなさい!」と言われ、タクシーが捕まる通りへと走った。



「木ノ島署まで!」



私用で使うなど当たり前ながら禁止。

だが、これも緊急事態。

警察手帳を見せながら、停めたタクシーに乗り込む。



「……姉貴、相当好きなんだな」



「何が」



ふと漏らした言葉を拾う兄貴に、俺は窓の外を眺めながら説明。

いつか、悠呀君を轢き逃げした犯人は捕まえたかった。

けど、兄貴と付き合い始めてからは、その気は薄れてたんだ。

昔を思い出して、兄貴との付き合いを止めるんじゃないかと思ったから。