先に斗志樹が戻ってたら、入室は拒否されただろうけど、先手必勝。

応接セットがあって助かった。

デスクチェアーに座り、パンプスを脱ぎ捨てた私は、他課に見えない事を良い事に胡座をかいて仕事に取り掛かる。

パソコンと資料を交互に見ながら没頭してると、ノック音がした。

課に繋がるドアはガラス張りだが、そちらに人の姿はない。

つまりは廊下側のドアから。

来客があるとは聞いてないけど、坂田署長かも知れない。

パンプスを履き、急いでドアを開けに行く。



「黒田さーん!!」



「……違いますが;;」



ドアを開けた途端、抱き着いて来た女性。

顔を見なくてもわかる、本庁のあの人だ。

斗志樹の婚約者に成りすまして、脅した人。



「はっ!すみません;;」



「いいえ;;気にせんといて下さい;;」



「何にキレてんだ;;」



…この女;;

諦めたんじゃないのか。

斗志樹が出て来たら、斗志樹に抱き着いてたわけでしょ?

それだと諦めたとは言えないでしょ。



「黒田課長にご用ですか?ただ今、ちょっと会議中なんですが」



斗真を無視し、用件を訊ねる。

暑くてここで仕事してる事は言えない為、誤魔化しながら。