「コーヒーで良いですか?」



「あぁ」



しばらくの抱擁後、課長の住むマンションとは違い、2階建てのコーポの私の部屋に入り、コーヒーを淹れる事にした。

最近は誰も来てないから、掃除が行き届かず、埃が散ってるかも知れないと、四方八方に視線を飛ばす。



「なぁ」



「はい;;」



コーヒーメーカーはなく、インスタント。

マグカップにお湯を注ごうとした瞬間、呼ばれて固まった。

いきなり話し掛けられると、嫌ではないけどちょっと戸惑う。

今は上司と部下ではないし。

喋り方はそれといって変わりないけど、実は久しぶりの恋愛に緊張してる。



「何かおかしいだろ」



「何がですか?」



それなのに、急に“おかしい”と言われても。

立ち尽くす私を手招きした課長。

テーブルにマグカップを置き、隣に座ると腕を引かれた。

…近いっ;;

額と額をくっ付けられ、顔に熱を帯びた私を気にせず、キスをされた。

触れるだけのモノなのに、驚きで目は大きく開いてしまう。



「今日の愛依、女みてぇ」



…女、ですが。

何を言ってくれるんですか。

拗ねた私に、課長は笑ってぎゅっと抱き締めて来る。



「俺で良いのか」



「貴方が良いんです。黒田さんだから、また恋がしたいと思ったんです」



急に真剣になった彼に、私も素直に答えた。

私の顔を確かめる為か、腕の力が緩んだ。

顔を上げると目が合い、また距離が縮まった。