「も、もしもし?;;」



『俺だ』



「あ、課長ですか;;」



…脅かさないでよ、馬鹿。

私だって、驚いたりするんだから。



「私、実家なんですけど、何かありました?」



『いや。遊び呆けてないなら帰る』



「“帰る”って?」



まさか、私の家まで来てくれた?

あの課長がわざわざ?



『気になって来ただけだ。実家なら逆に安心もしたし、じゃあな』



「……何なの、本当……」



普段は冷たくて厳しい性格なのに、いきなり優しくなって。

いい加減にして欲しい。

私の気持ち、封印したつもりなのに。

携帯を握ったまま、真っ暗な画面を見つめる。

…どうして、そこまで。



「電話の相手。課長さんと何があったかとか、そんな事は訊かない。でも今、愛依はその課長さんの優しさに、泣きそうになってる。悠呀君の存在で、堪えてる事が沢山ある」



「何を言って……」



「また恋したって良いでしょう。悠呀君はそんな小さな人間だった?違うって思うなら、素直になりなさい」



親はどうしてこう鋭いんだろう。

うちの両親は特殊だけど。

私の事には、触れないだけかも知れないけど、斗真より敏感な気がする。

笑顔が多くなると、“悠呀君と何かあった?”って言い出したり。

私の気持ちが沈んでると、“悠呀君と喧嘩でもしたの?”って。

そんな会話、また出来るのかな……。