「「…………」」



それにしても、この無言は何。

話題はなくはないでしょ?

何だったら悠呀の話でも良いから、無言だけは止めて欲しい……って。



「寝てるし……;;」



ほんの何十秒か前まで起きてたのに、早くない?

そりゃあ疲れてるかも知れないけど、今の間は子供並みに早かった。

人様の家ながら、寝室に入って掛け布団を取りに行く。

座ったままの課長を横にし、布団を掛ける。

ジャケットは帰宅してすぐ脱いでた為、緩められたネクタイをスルッと抜き、ボタンを三つ外す。

寝苦しさが少し解消されたのか、いつもみたいな堅い表情から、柔らかな表情に変わった彼の頭を撫でる。

これが彼の素顔なのかな。

悠呀の死が、彼を変えてしまったの……?



「…………」



頭を撫でてた手を引っ込め、コーヒーを飲みながら部屋を見渡す。

テレビに本棚。

ソファーにローテーブル。

新聞は整理させてカゴに入れられてて、塵一つないこの部屋は広く、どこか寂しい。

空となったマグカップと、課長の分のマグカップを片付けてる。

整理整頓されたキッチン。

洗ってラックに置き、ふと時計を見ると終電ギリギリ。

電車は諦めて、オートロック式を良い事に課長を起こさずマンションを出た。

そして大通りでタクシーを拾った。

呑み代が浮いたし、今日はタクシーで帰ろう。