「何かあったんだろ」



「別に何もないです。ジャケットは、縫ってからお渡ししますから」



「……わかった」



2人きりの空間が怖い。

悠呀の言葉で、意識してるんだろうか。

署に着き、私は課長のジャケットの穴を縫う為に、引き出しからソーイングセットを出した。



「今日は送りますから、車は置いて帰って下さい」



「そこまでしなくても良い。通勤にも関わるし」



「じゃあ、私が車を置いて行きます」



課長の視線に気付きながらも、見ないようにして裏返しで縫って行く。

裁縫は久々だし、またスーツを縫った事はないけど、親に感謝する位、まあまあ縫えてる。

大丈夫そうだ。



「戻りましたー」



斗真たちが帰って来て私たちの前に整列した為、私は手を止めて椅子から立ち上がった。



「無事に人質を救出。犯人は人質を救出後に自殺を図りましたが、何とか大丈夫です」



「よくやった」



「「「『…………』」」」



課長が珍しく、拍手をして褒めてる姿に私たちは呆然とした。

しかし、斗真は「夜勤以外は飲み会だ!」と提案。

夜勤は七星と、鶴田ーツルター君。

残念そうな2人を横目に、私は課長に「行きますか?」と訊ねた。



「行く」



「呑まないのが条件ですからね」



私はそう言って、課長のスラックスのポケットからキーを奪い、自分のジャケットのポケットへと沈めた。