「あのさ、ちょっと良い?」



「ヤダ。その顔、ロクな話じゃなさそう」



「あんたにとっては、良い話かもよ?」



「――ねぇよ。姉貴と兄貴が、ここから居なくなるかも知れねぇ話なんて」



「……斗真?」



「俺、まだ覚悟してねぇんだ。昇進なんて」



「…………。斗真!」



もしかしたら、斗真にはもう、昇進の話が来てるのだろうか。

スタスタと、私の呼び止めに振り返らず、どこかへ歩いて行く背中は、何とも寂しげ。

私よりも、思い詰めてる。

課に戻れば、課長室で何やら七星が怒られ、磯村さんは上の空。

一体、ここはどうなって居るのか。

こんな筈ではなかった。

大きな、例えば警視総監などと言う夢を語る者は居なかった。

でも、前を向いて、一致団結してた木ノ島警察署の刑事課は、どこへ行ってしまったのか。

七星と斗真が戻ったのを確認し、私は徐に立ち上がり、デスク後ろにある棚から、重い昔の資料が挟まったファイルの1冊を取り出して、ダン…ッと机に叩き付けた。



「ボーッとしてんなやッ!そんな暇、私たちにはないやろが!!」



「「「『…………』」」」



私だって悩んでるよ。

考えてしまう。

でも、みんなには楽しそうにここで働いてて欲しい。