私は課長の手を握りながら、不甲斐なく涙を流してしまった。

彼を、苦しめてしまうかも知れないのに。

悠呀への思いが募り、耐えられなかったんだ。



「ダメですね……。3年も経つのに……っ……」



今まで1人で泣いて来たのに。

何で、今日に限って。



「泣けるだけ、良いのかもな。悲しいという感情がない俺は立ち止まって、欲だけを膨らませる、醜い人間だから」



…そんな事ない。

それは私もだったから。

そう言いたくても、言葉には出来なかった。

目頭にハンカチを押しあて、頭を撫でてくれた課長に、甘える事しか。

それに、彼だって一筋の涙を溢した。

酷くなんかない。

良い人だと、私は思う。




「黒田さん、コレ……」



そんな彼に渡せる肩身と呼べるモノは、もうペアリングの片方。

悠呀がしてたものしかなかった。

ジュエリーボックスを鞄から出し、課長に託した。



「これは受け取れない」



「良いんです。さっき気が付いたんじゃないですか?私は悠呀の車があります。3年前のままのあの車……」



ペアリングがいらないわけではない。

ただ、忘れないで欲しい。

悠呀が居た事。

課長の同期、仲間であった事を。

それが、課長から悠呀への供養だと思うから。



「……わかった。難波がまた恋が出来た時、俺から男に渡してやる」



…ありがとうございます。

私は気持ちだけ、受け取る。

だって。

もう恋はしないから。