「くだらない電話に、無駄な時間を使うな」



「私がキレたら、止められませんよ?斗真も居ないのに」



課長を下から睨み付けると、この人に効果がない事に気が付いた。

こんな事は初めてで、内心驚く。

悠呀が亡くなったあの日、一緒に病院へ来た斗真が止めてくれた。

お医者さんを突き飛ばして。

機械も壊した。

両親が駆け付けたら、看護師さんたちの指示で3人がかりで外に連れ出され、落ち着くまで入るのを禁止されたっけ。




「戻りましたー……って、どうかしました?」



「主任が暴れたら止められるかって。結果は見えてるよな」



「姉貴をキレさせないで下さい。過去を見せたくないですし、大変なんですから」



課長に話し掛けられた斗真は、私を心配そうに見てから席に座った。

斗真はどれだけ優しいんだろうか。

でもこれも、あの日からだった。

胸元に下がる指輪を握りながら、斗真の背中を見つめる。

斗真は斗真で、悠呀の形見である交通安全のお守りを握って居た。

忘れられないのは、私だけではない。

悠呀の家族。

友達。

そして、私と斗真。



「……仕事に戻りましょう」



未だに私を見下ろしてた課長にそれだけを言って、仕事を再開。

もうすぐ命日。

その日は有休を取ってある。

それまでに、終わらせたい仕事をやって置かないと。

今年こそは、ゆっくりと参りたいから。