冥王星

「それで、おまえに
最初に愛情をかけたのは誰だったんだ?」

「兄者だ。

血のつながりも何もない。
兄者にとっては
赤ん坊の俺を育てることが
修行だった。

もちろん、たった一人で
やってのけたわけじゃない。

いろんな人が、俺を育てたよ。

仏の教えはきびしい。
だが一方で、
全てが繋がっているという
あたたかい教えでもある。

その中で俺は育ったよ。」

ゲドウはカンバスを眺めていたが
その目は自分の内面を見ていた。

「そして俺は、山を降り、
一人の女と愛し合い、
それからある男としばらく
共に生活した。
そいつは死んじまったがな。

そいつとの生活は、
愛憎そのものだった。」

「愛憎だと?」

「そいつは俺の
暴力的な側面を引き出し、
そんな自分に俺は、
憎悪するようになった。

だが、あるとき、
そいつを殴る代わりに、
抱きしめた。

そのとき、
憎悪が、愛情に変わった。」

はじめて、ゲドウが俺を見た。

「自分の憎悪していたところも、
そいつ自身のことも、ありのままを
受け入れるようになった。」

「そいつは何で死んだんだ?」

「痩せ病だよ。
又三郎と同じくらい美しい少年だったが、
最後は見る影もなかった。

最後まで共に過ごしたよ。」

ゲドウは絵筆をカンバスに
押し付けにじっていた。

まるで自分の絵を壊している
かのようだった。

「憎悪が愛情に変わるなんてことが
ありうるのか。」

「あるんだよ。」

「だったら逆に、
愛情が憎悪に変わることも
あるんじゃないか?」

「そうだろうな。」

それからは
ゲドウは急に仕事に
集中し出し、
すばやく筆を進めた。