冥王星

小船をこぐ男の姿がある。
生命力にあふれた髪の毛を束ね、
大きな背中を持った剣士である。
二振りの日本刀を携えている。

一方、島にも一人の男の姿があった。
この男はどこか人間離れしていた。
異界の者の目をしていた。
この男の持つ刀はとても長い。

小船からわらじを履いた足で
波打ち際をつかむように
上陸したこの剣士は宮本武蔵。

この男を待っていたのは佐々木小次郎。

対峙した二人の決闘。
はじまりは静寂。

やがて爆発のように両者の刀がぶつかる。
火花が散る。

宮本武蔵は両の手に刀をかざして立った。

両者の精神には静かに青い炎が宿る。



「ん、熱いぞ。」

幻灯に見入っていた誰かが言った。

「うわ、燃えてる。」

俺は変性意識状態から自分を覚醒させた。
宮本武蔵も佐々木小次郎も、
巌流島も海も、一瞬にして消えた。

しかし、何もない空間に炎が燃えているのだ。

「ミゲーレ!!何?消してよ!」

博士が慌てる。

「これ、幻灯じゃない!ほんとの炎だ!」

少年たちがざわめく。
見る間に炎は床に燃え移っていく。

「消せ!」

俺は床の火を踏んだ。
少年たちも急いで足踏みして火を消す。

なんとか消えた。

それにしても何故?
この部屋に火の気などない。

「又三郎、ここバケツあるか?
水くんできてくれる?」

又三郎にたのんで、
念のため床に水をまいた。

「でも、なんで火なんか。」

俺は又三郎に声をかけた。
又三郎は呆然としていた。
信じられない、という風だった。
その目は、二つの池のように見えた。

「又三郎、大丈夫か?」

「あ、うん。」

少し震えている。

「しかし、こりゃまずいぞ。
俺が忍び込んでぼやをおこしたなんて。
博士、ちょっとあかりつけてみて。」

絨毯が、少しすすけている。

「まあ、このくらいなら大丈夫じゃない?」

博士が絨毯をながめながら言った。
管理人が、いちいち部屋を調べるわけでもない。
問題ないだろう。

「もう、俺たちもどろう。」

なんだか気味が悪い。

少年宿舎から帰るとき、
又三郎の足取りがやけに重い。
ぼんやりして、たまに立ち止まり、
また歩き出す。

「又三郎、どうしたんだ?」

不安そうだ。
やっとのこと自分を支えているような所在無さで、
俺は抱きしめたくなった。

「大丈夫だよ。」

小さな声で言って自分の部屋に向かっていった。