冥王星

「あんたも、今の俺みたいにやっぱりヘブライ語には苦労しただろうな?」

「ヘブライ語?俺できないよ?」

「え?だって、経典はヘブライ語で書かれてるじゃないか。」

剛力は胸ポケットから一冊の本を取り出した。
擦り切れた茶色い革の表紙だ。

本を開いてみると、共用語で書かれていた。
読んでみると、それは経典じゃないか!

「これ・・・」

「翻訳版だ。知らないのか?」

「なんだよ、翻訳あるんじゃないか!
ヘブライ語しかないって言うから俺・・・」

「そんなこと誰がいったんだ?
ここの連中でヘブライ語のできる奴なんてほとんどいないぜ。
餓鬼んちょの博士くらいのもんだ。」

「あんの糞餓鬼。」

「それ、あんたにやるよ。」

「え。だって、いいのか?」

「俺もう読まないから。」

「ええ!読まないって?修道士なのに?」

「俺本きらいなんだ。」

俺とルイーダは大笑いだ。

「でも一度くらいは読んだんだろ?」

「うーん。まあ、ざっとな。」

いい加減な返事だ。

「俺も、昔先輩にもらったんだよその本。
その人も誰かにもらったって。
代々引き継がれてきてるってわけだ。
その中でちゃんと最後まで読んだ奴、どんだけいるのかな?」

本をぱらぱらめくってみる。
表紙は擦り切れている。中の前半の方の頁はぼろぼろだが、
後ろの方はたしかにあまり痛んでいないように見える。

「なんか、ここって緩いよな。」

「へ?」

「いや、俺が前にいたとこと比べて。」

「ロマリアか?」

「いや、そのまえの、俺の出身地。そこも僧院だったんだ。」

「ああ、そうなの?」

剛力は驚いたようだ。

ルイーダが話に入ってきた。

「お兄さんはどこの出身なのよ」

「日ノ本だよ。東の果て。」

「まあ、東の果てから、この西の果てまで、
ずいぶん長い旅をしてきたんだね。」

「ほんとに。長い旅だよ。」

ともかく、経典の翻訳版が手に入ったのは大収穫だ。
これで糞餓鬼博士に一泡ふかせてやるぞ。