冥王星

俺は初めて又三郎と
話した城壁に来ていた。

すると、
又三郎は海に向いて
足をぶら下げて座っていた。

この時間、
厨房係は祈りの時間だった。

俺は城壁の低い部分から
つたって歩いていった。

又三郎が俺に気づいた。

「ここに登っちゃだめだって
言ったろう。」

俺は又三郎に近づきながら
言った。

「ミゲーレだって、
登ってるじゃないか。」

会話を交わしたのは
久しぶりだった。

又三郎の視線は、
俺の持っている紙袋を
とらえた。

その紙袋には
又三郎の実家の
パン工房の銘が
入っているのだ。

「へへ。これ何だ?」

俺は紙袋を掲げて見せた。

「何?それうちのじゃない?」

俺は城壁から降りた。
又三郎もつづいて降りた。

「今、アイリスに会ったんだ。」

「ええ!?」

「おまえを心配して
来てくれたんだよ。」

「アイリスは?」

「もう帰っちゃったよ。
旦那さんと、赤ん坊と。」

「ええ!なんでよ。」

「アイリスは、おまえには
自分自身で問題を解決して
もらいたいんだって。」

又三郎は黙った。

「これ、」

俺は紙袋を覗いた。
又三郎にも見せた。

「これ、マカロンだよ。
卵白で作るんだ。
僕が一番すきなのは
豆だよ。」

又三郎は紙袋の中から
緑色の焼き菓子を
探し出して
俺に差し出した。

「俺、さっき一個もらったよ。」

「さっきは何味?」

「バニラ」

「じゃあこれ、豆を食ってみて。」

俺は言われたとおりにした。
豆味はバニラよりさらに
コクがある。

「うまい。」

「僕はこれ食べよう。」

又三郎はチョコレートを
口にした。

「なあ、俺がゲドウと
そんな関係じゃないって、
わかるよな?」

俺が言った。
又三郎は目を伏せた。
焼き菓子を食いながら
俺の言葉を聴いている。