冥王星

階段を昇りに昇ってきた
ゲドウは息が上がっていた。
その顔には、
俺が今朝殴ったあとが
痛々しく残っていた。

そして、
厨房の入り口に向かって、
怒鳴り込んだ。

「又三郎!!
なんで飯を持ってこないんだ!!」

しばらく又三郎は
目の前の仕事に追われていた。

「朝は、床に落としちまうし、
昼も夜も、持ってこないじゃないか!」

「君も、みんなと一緒に、
ここへ来て食べれば
いいだろ!

この時間は忙しくって、
そんな暇はないんだ!」

又三郎が手を休めずに
大きな声で言った。

又三郎が、
他者に対してこのように
強い言葉を発するのは
初めて聴いた。

厨房の奥から、
調理長の声がとんできた。

「そういうわけなんでね。
ゲドウもこっちで
食べてもらえると助かるんだが。」

調理長にそう言われては、
ゲドウに返す言葉はない。

又三郎は
夕食の乗った盆を
ゲドウに持たせると、
また厨房の奥に戻っていった。


そんなゲドウに、
トラビスが何か話しかけていた。

どうやら、
ゲドウの顔の怪我を
回復魔法で治そうと
しているらしかった。

しかし、ゲドウは
そのまま席について
食事を始めた。



トラビスが
俺の隣に座った。

「ゲドウの怪我は
そのままでいいってさ。」

「ふうん。」

ゲドウめ、
どうしてあんな
くだらない嘘をついた。

そして又三郎も、
なんで簡単に信じてしまったんだ。

俺のことを
信じられなかった。

恋が幻影だから?

「ミゲーレ、
具合は大丈夫か?」

俺がよほど
険悪な顔をしていたのか、
トラビスが心配そうに
している。

「ああ。
朝よりは、だいぶ落ち着いた。」

「何かあったかい?」

「まあ、いろいろと。」

「そうか。」

トラビスはそれ以上
聞き出そうとはしなかった。


俺は食事している
ゲドウのところへ行った。

「今夜は用事がある。
休ませてもらうぞ。」

「わかった。
また明日の朝から
たのむぞ。」