冥王星

「失恋したんだ。」

「誰に?!」

「又三郎に。」

俺に茶を差し出しながら
言った。

「聞いたことの無い
お名前だわ。」

「そうだろうな。」

「男の方?」

「そうだよ。」

「ミゲーレは衆道なの?」

「もともと女が好きだったんだが、
どうも男から好かれる傾向が
あってな。」

俺は茶をすすった。

「そうなのよね。
いい男って、男から好かれるのよね。」

「そいつはどうも。」

「それで、失恋したですって?」

「殺そうとしたんだ。俺を。」

「まあ。」

「どうしてそんなことに?」

「誤解があったんだよ。
ほんとに単純に。」

「恋人同士で刃物沙汰に
なることって、
結構あるのよ。

可愛さ余って憎さ百倍
っていうからね。」

「そんなんじゃないよ。
本物の殺意だった。

殺そうとした。俺を。」

そう言うと、
俺は自らの言葉に恐怖した。

「殺そうとって、どうやって・・」

「それが、魔力なんだ。」

「お相手は魔法使いなの?」

「魔法使いになれない、
魔法使いなんだ。」

「なあに、それ?」

ヴェロニカは笑ってみせた。

「魔力は持っているが、
使いこなせていないんだ。

その又三郎が、はじめて、
意識を持って、
魔法で俺を殺そうとした。」

「でもあなた、生きてる。」

「そうなんだ。」

しばらくお互い見合った。

「何も起こらなかった。

聖堂をぶっ壊したり、
この海全体を
凍らせたりするほどの
力をもってして。

だけど、あの後から、
俺の体がおかしいんだ。」

「どうなさったの?」

「俺の中に、
何か危険な力が宿っている。
そいつがせりあがって
きそうになるんだ。」

ヴェロニカは席を立って、
何か取りに行った。

もどってくると、
手にろうそくを持っていた。

ろうそくを机に置いた。

「火を灯してみて。」

俺は黒くなったろうそくの
芯を見つめ、
ヴェロニカに目線を送った。

ヴェロニカはうなづいた。

「待って、加減して頂戴ね。
火事になったりしたらいやよ。」

俺は一番弱い
火炎魔法の呪文を唱えた。

ろうそくが灯った。

「あなた、魔法が使えるように
なったんだわ。」

「こんなことって、あるんだろうか。」

「さあ、あとは
本職の魔法使いの先生に
聞いて頂戴よ。」

俺は昔に、
自分が女を愛し、
その女に回復魔法を
吸い取られてしまったことを
思い出していた。

「あなた、疲れているわ。
少し眠って行ったら?

夕方になったらおこしてあげる。

私はマリアの部屋で寝るわ。」

ヴェロニカは寝具を半分めくった。




以前、ヴェロニカを
ひどい奴だと思った。

そんなヴェロニカに
親切にされてしまった。

12枚の紙幣の威力かもしれないが。

横になると
俺は深い眠りに落ちた。