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去年のバレンタインは、お父さんにしかチョコをあげなかった。義理チョコをあげるような男友達も、もちろん本命の男の子も、わたしにはいなかったから。


世間が甘く浮かれた雰囲気で華やいでいたあの日。わたしはいつもと変わらない調子で本屋に寄り、文庫本を3冊ほど購入して家路を急いでいた。


冷え込みのきつい午後だった。
空は灰色の雲で覆いつくされていた。

そしてちょうど、近所の公園の前を通りかかったときだ。

コートも着ずにジャージ姿で立ちすくむ幼なじみの姿を、わたしは見つけた。


「あ、コータ……」


声をかけようとして、とっさに口をつぐむ。

コータが一人じゃなかったから。

気まずそうにうつむく彼の視線の先には、他校の制服を着た、かわいい女の子の姿があった。

女の子は下を向き、長い髪がまるでカーテンのように顔を隠していたから、表情は分からなかったけれど……

その手には、きれいにラッピングされた箱。

だけどコータはそれを受け取っていない。

恋愛に疎いあたしでも、さすがに彼らの状況が何を意味するのか、察しがついた。